女性専用車両を使ったトランス差別扇動

産経の(おそらく極右的傾向を持った記者による)女性専用車両に関する記事。後述するように、トランス排除を煽る犬笛の効果がある。そして、社会学者の千田有紀がこれを取り上げて、これも一見「両論併記」に見えるのだが犬笛として働く記事を書いている。

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「ミスジェンダリング」という差別(8/9追記)

ミスジェンダリング」(本人のジェンダーアイデンティティ、あるいは生活上のジェンダーと異なるジェンダーでその人を呼称したり取り扱うこと)がなぜ差別になるか。

ネットでは「民族差別や女性差別に反対している」はずの人が、特にトランス女性をターゲットにして「女性としての取り扱い」からの排除を煽っている。その土台にあるのが「トランス女性を女性と見做さない」ミスジェンダリングだ。
(トランス男性を男性と見做さないミスジェンダリングも当然ある)

いくつか考えてみたい。

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「論座」におけるトランス差別扇動を検証する

論座」にLGBT関連法をめぐる論考が掲載された。著者は千田有紀氏(武蔵大教授)である。 5ページにわたっており、女性やLGBTの権利擁護について近年保守派が関心を示していることを挙げ、「権利擁護=左派、とは限らない」として「ねじれ」があることを強調し、トランスジェンダーをめぐる「緊張関係」を訴える。

印象としては「現代思想(20年3月臨時増刊号)」に掲載された「論考」に比べ、より慎重に、より丁寧に「両論併記」を行い、「差別だと指摘されない」ように言葉を重ねる巧妙さは向上しているなと感心する。 ラディカルなトランスフォーブからみれば「物足りなく」感じるであろうし、逆にトランス差別に関心が薄い人からすれば「上手く納得させられてしまう」ような危険性を持っている。
実際、既に千田の姿勢に取り込まれ、それに対する批判を「トンデモだ」と非難する学者もいる。
ただ、やはり「両論併記」の形を取りつつもトランスフォーブの主張を盛り込み、批判を矮小化する流れを作っていることには違いがない。著者本人がどう意図しているかにかかわらず、トランス差別を「それと気付かれないように煽る『犬笛』」としての働きがあるのではないか。

いくつか指摘しておきたい。

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トランスジェンダーとスポーツ

自民党山谷えり子参院議員(元拉致問題担当相)が、自民党が準備中の「LGBT理解増進法」を検討する党内会議の後、記者団に向かってトランスジェンダー差別発言をしたと報じられている。

 

内容的には数年にわたって繰り返されている「トイレ云々」と「スポーツ」に関する「ヘイトデマ」(と呼んで差し支えなかろう)である。

 

山谷は「アメリカなどで問題になっている」というが、問題に「している」のは主にトランプ前大統領を支持する極右・保守派、宗教右派キリスト教福音派である。

「女性の権利(あるいは安全)」とトランスジェンダー女性の権利が対立するかのようなデマは左派からも散々発信されてきたが、ここにきて家父長制・復古主義ど真ん中で在特会とも交流のある、フェミニズムバッシングの中心にいた山谷えり子が同じロジックでトランス差別を発信したのは象徴的だ。ツイッターで観察しているトランス差別アカウントの多くが山谷に賛同しつつあるようだ(左派と見られる人も含め)。トランス差別を突破口に人権派を切り崩すという極右の狙いは、残念ながらある程度成功していると言わざるを得ない。

 

スポーツは男女を別にして実施されるものが多い。その中でトランスジェンダーはどう扱われてきたか。まず「(希望する)スポーツに参加することは基本的な人権である」ということを踏まえつつ考えておきたい。

 

アメリカで何が起きているかについてはこの記事が詳しい。

front-row.jp

「トランス女子選手が女子競技でメダルを独占した」という(ほぼ)デマについても、この記事のなかで詳しく解説されている。

 

(2022/8/27追記)

最近もこんな事件があったようだ。
トランスを「見つけ出して排除する」という行為は、結局のところ「トランスではない女性の安全も脅かす」のだ。

トランス排除がフェミニズムになるわけがない。

 

 

 

競技スポーツにおいては「公平性」が課題となる。山谷だけでなく、「メダルを取るために」性別を変更して女子スポーツに侵入してくるトランスがいるかのようなデマが流されているが、オリンピック委員会をはじめ様々なスポーツにおいてトランスジェンダー及びDSDsの選手が公平さを損なうことなく参加できるようルールを定めている。

もちろん、そのルールに問題があるなら改善が必要だろう。ただ、その責任を負っているのは試合を監督する競技団体である。たとえばフィギュアスケートの採点が不公平だという指摘を受けて現在のISUジャッジングシステムが確立されたように(なお、細かな基準は毎年のように見直されていることも付け加えておきたい)。

 

 

近代オリンピックが始まった頃、女性はスポーツから除外されてきた。「誰が女性としてスポーツに参加できるのか」をめぐって「性別確認検査」などという人権侵害もあった。

 

西宮市が作っている男女共同参画啓発冊子の2019年版は「女性とスポーツ」と題して、性別確認検査のこと、そしてトランスジェンダーのスポーツ参加にも触れている。

http://www.city.nishinomiya.lg.jp/bunka/danjokyodosankaku/johoshi/danjosasshi.files/sports.pdf

http://www.city.nishinomiya.lg.jp/bunka/danjokyodosankaku/johoshi/danjosasshi.files/sports.pdf

 

(2022/8/27追記)

スポーツとジェンダーについては、北米での研究を踏まえて日本独自の状況や自身の体験を踏まえ、民族・人種・階級とのインターセクショナルな視点から研究している井谷聡子氏の論がとても勉強になるし説得力がある。関心がある方は読んでおくといいと思う。

 

 

 他にも学びになった論文があるので2つ貼っておく。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsss/18/2/18_23/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsss/18/2/18_23/_pdf

 

https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/lgbt_studyreports/2017/2017_part4.pdf

https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/lgbt_studyreports/2017/2017_part4.pdf

 

news.yahoo.co.jp

 

 

2020年を塗りつぶしたトランス差別

ふと振り返ると、正月早々に千田有紀武蔵大学教授)の発言に批判が集まった(もちろん私も批判した)ことから始まって、年末にフラワーデモ茨木がトランス差別の姿勢を明らかにする(その後、フラワーデモ本体から「今後は私たちとは無関係」と切り離される)ところまで、本当にトランス差別で気がかりな大きな動きがずっと続いたな、と思う。

もちろん、日本語圏での差別が激しくなったのは2018年7月のお茶の水女子大による「トランスジェンダー女性の学生を受け入れる」表明以降なのだけど、今年に入ってから「新しいステージ」に入ったように思うのだ。もちろん、それに対する対抗言説もしっかり組み上げられられてはいるけど。

世の中は新型コロナ=COVID19感染症で大変だったし、私もある程度の影響は受けたのだけど、2020年は世界的にはCOVID19の年だったのだけど、安倍内閣の無茶苦茶、代替わりしてスガ内閣の無茶苦茶、とくに学術会議のこととか、社会は無茶苦茶だったのだけど・・・

まあ、数あるトピックの中で、トランス差別に関わる主要な事件を、いくつか簡単にピックアップしてみる。

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