「ミスジェンダリング」という差別(8/9追記)
「ミスジェンダリング」(本人のジェンダーアイデンティティ、あるいは生活上のジェンダーと異なるジェンダーでその人を呼称したり取り扱うこと)がなぜ差別になるか。
ネットでは「民族差別や女性差別に反対している」はずの人が、特にトランス女性をターゲットにして「女性としての取り扱い」からの排除を煽っている。その土台にあるのが「トランス女性を女性と見做さない」ミスジェンダリングだ。
(トランス男性を男性と見做さないミスジェンダリングも当然ある)
いくつか考えてみたい。
そもそも、シスジェンダーに対してであっても、その人と異なる性別で呼ぶことはハラスメントになる。
そして、トランスジェンダーに対してのそれはシスジェンダーに対するものとは働きが違う。それは、シスジェンダーの場合、ミスジェンダリングには抵抗することが容易いからである。シスジェンダーは生まれた時から一貫してそのジェンダーに帰属している。公的な書類にはその性別が記され、仕事に就くとき、医療的措置を受けるときに疑問を持たれる心配もない。
トランスジェンダーに対するミスジェンダリングは、その人が自己認識しているジェンダーに自分を適合させるために実施している様々な努力を打ち砕き、ジェンダーの自己決定権を、そして生きる力を奪い取るものである。
また、ミスジェンダリングはアウティングの危険性もある。たとえカムアウトしているトランスであっても、自分がトランスであると必要以上に知られたいわけではない。
ゲイであるとアウティングされて自死に至った学生のことは知られているが、この日経記事によるとアウティングされた経験が多いのはトランスジェンダーだ。
そして、さらに考えておかなければならないのは、トランス女性に対するミスジェンダリングはミサンドリーとも組み合わさって「トランス女性に対する(架空の)恐怖」を作り上げ、「トランス女性は攻撃してもいい相手なのだ」と指示する「犬笛」の働きをするということである。
むろん、ミスジェンダリングをした人がすべて差別の意図を持っているとは限らない。しかし現実的に差別主義者が差別を扇動する戦術のひとつとしてミスジェンダリングを取り入れている以上、「差別に加担しない」ために、ミスジェンダリングをしないよう気をつける必要があるだろう。
なお、トランスジェンダーを攻撃する犬笛はミスジェンダリングに限らず、様々な類型がある。これらについて知っておくことも有益だと考える。
「レイシズムとは何か(梁英聖)」では前書きでレイシズムを「人種化によって殺す(死なせる)権力である」と定義しているが、この「人種化」概念をさらに広げるならば、トランスフォビアとは「トランスを他者化・排除することで(最終的には)死に追いやる主張」だと言える。
我々は「トランスフォビアに抵抗する」必要がある。
参考文献
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/78423/mp_51_001.pdf
日経記事
ミスジェンダリングとは何か、なぜ差別的なのか(英語)
最も一般的なトランスフォビアの犬笛12パターン
8/9追記
論文「シス特権とトランス嫌悪言説の分析:ジェンダー帰属の通時的固定制とジェンダー規範批判」
以前にも読んだはずで、この記事を書くときにも思考のベースにはあったはずなのだけど、再読して「ジェンダーマーカー」という概念が非常に大事だと思った。