「反ジェンダー運動」(Anti-gender movement)
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この記事は、保守的あるいは宗教的な反ジェンダー運動に関するものである。より広い意味でのジェンダー概念への反対運動については、ポストジェンダリズムを参照。反トランス・フェミニスト運動については、「ジェンダークリティカル」を参照。
反ジェンダー運動は、ジェンダー・イデオロギー、ジェンダー理論、ジェンダリズムと呼ばれるものに反対する国際的な運動である[1]。 これらの概念は一貫した定義を持たず[2]、様々な問題をカバーしている[1]。ジェンダー・イデオロギーは「空の記号」として記述されており、「保守カトリックが嫌悪するもの全てのキャッチオール・ワード」として記述されてきた[2]。 [3] ジェンダー・イデオロギーの考えは、社会を弱体化させようとする秘密の陰謀があると主張することから、学者によってモラルパニック[4][5]や陰謀論として説明されている[6] 欧州議会による報告は、欧州における反ジェンダー運動の高まりを、大部分がロシアによって後援されている偽情報キャンペーンに関連づけた[7]。
この運動は1990年代に始まったカトリックの神学に由来するが、この運動が注目されるようになった抗議活動は2012年から2013年頃まで始まらなかった[8]。 同性婚やトランスジェンダーの権利に対する反対を含むことが多い。歴史家のアンドレア・ペトゥーは、反ジェンダー運動は古典的な反フェミニズムの一形態ではなく、「新しい世界秩序を確立するために開始された根本的に新しい現象」であると述べている[9]。
用語[編集］
反ジェンダーというフレーズは英語圏のコミュニティでは滅多に使われない。主に他の言語圏ではジェンダー、セクシュアリティ、生殖の自由に関連する進歩的な政策に「外国の」ラベルを付けるために使用されている[10]。
ジェンダーイデオロギーの概念は首尾一貫した定義を持たず[2]、様々な問題をカバーしている[1]。この理由から、学者のStefanie MayerとBirgit Sauerによって「空の記号」[2]や「保守的なカトリックが嫌悪するすべてのもののための」キャッチオールな用語として説明されてきた[3]。 交換可能に使われる用語ジェンダーイデオロジーや関連する用語ジェンダー論やジェンダリズムはジェンダー研究の学術分野に相当せず、この中には大きな論争と意見の対立が存在している。エリザベス・コレドールは「ジェンダー・イデオロギーは、ジェンダー、セックス、セクシュアリティの解放的概念に対する政治的・認識論的対抗手段として機能している」と書いている[12]。 彼女は反ジェンダー運動が「ジェンダー・イデオロギー」のレトリックとLGBTやフェミニスト運動内の既存の分裂を利用しようとする試みを組み合わせていることを付け加えている[12]。 [この運動は、「リベラル、グリーン、左派の政治家、女性の権利活動家、LGBT活動家、行政のジェンダー政策担当者、ジェンダー研究者」を含む様々なアクターを「ジェンダー・イデオロギー」の担い手として非難している[13]。
起源説[編集］
反ジェンダー運動がいつ、どこで発生したのかについては様々な説がある。
1990年代半ばの国際会議[編集] 。
反ジェンダー運動を研究しているほとんどの学者は、その起源を1994年の国連の「人口と開発に関する国際会議」と1995年の「世界女性会議」の結果に対抗するためにカトリック教会内で行われた1990年代の議論とみなしている。 16][17][18] 聖座はこの認識によって中絶が人権とみなされ、母性が正当化され、同性愛が正常化することを恐れていた。ジェンダーという言葉は「聖座によって自然な家族を攻撃し、不安定にする戦略的な手段として理解されていた」[16]。 1997年にアメリカの反中絶ジャーナリストであるデイル・オリアリーは「ジェンダー・アジェンダ」と題する本を書いている。「ジェンダー・アジェンダは、高い船としてではなく、潜水艦として、できるだけ自分自身の姿を明らかにしないことを決意して、地域社会に出航する」[19]。カトリック思想において、ジェンダー・イデオロギーの概念は、性別が異なっていて補完的であるとされる、ヨハネパウロ2世の身体の神学から生まれたものである[20][21]。 [20][21] 反ジェンダー運動の思想は2003年までに発展したが、この運動に関連する抗議行動は2012年から2013年頃にほとんどのヨーロッパの国々で初めて出現した[8]。 まだカトリックの行為者によって推進されているが、反ジェンダー運動は2019年までに右翼全体でより一般的に広がった[12]。
1980年代の教会の起源[編集］
あるいは、反ジェンダー運動は1980年代初頭に、後のローマ法王ベネディクト16世であるヨーゼフ・ラツィンガー枢機卿が、ジェンダーは社会的に構築されたものだと主張するフェミニストの本がドイツでベストセラーになっていることに気づき、トランスジェンダーの人々が合法的に性転換できるドイツの法律の変更に気づいたことに起因するとされている。したがって研究者のメアリー・アン・ケースは、「トランスの権利の主張は、フェミニストの主張とともに、したがって『ジェンダー』をめぐるバチカンの関心領域と、世俗法の発展に対するその関心の焦点に、最近の追加ではなく、基礎的な構成要素だった」と論じています[14]。
その後の展開[編集］
ピアースらは、2016年頃からジェンダー・イデオロギーの概念が「トランス排他的なラディカル・フェミニストの言説において流通の増加を見た」と述べている[22]。
欧州議会の委託を受けた報告書は、ヨーロッパにおける反ジェンダー活動がロシアとアメリカのアクターによってかなりの程度資金提供されていることを明らかにした[7][23]。
中心人物と課題[編集］
反ジェンダー運動の主要な推進者は、デール・オリアリー、ミシェル・シューヤン、トニー・アナトレラ、ガブリエレ・クビー、マルグリット・ピータースなどである〔。 [20][24] Łukasz Wawrowskiによれば、ジェンダー研究者と反ジェンダー支持者の間で科学的な議論を行うことは不可能である。なぜなら前者にとってジェンダーは研究し反証できる科学的概念であり、一方反ジェンダー支持者は経験的検証の対象とならない神によって伝えられた超越的真実にその論拠を得ている[25]からである。
反ジェンダー運動のメンバーは、リプロダクティブ・ライツ、特に中絶、LGBTの権利、特に同性婚に反対し、ジェンダーに基づく暴力に反対するキャンペーンも行う[1][26]。 またいじめ防止プログラム、学校での性教育、高等教育でのジェンダー研究[27]にも反対運動を行う場合がある。 [コヴァーツによれば、（「ジェンダー」や「ジェンダー・イデオロギー」に反対することで）「反ジェンダー」のラベルに当てはまる運動の全てがあからさまな反フェミニストや反LGBTであるとは限らず[13]、反ジェンダー運動は以前の反フェミニズムや同性愛嫌悪とは異なる新しい現象である。 すべての極右運動が反ジェンダー観を支持しているとは限らず、反ジェンダーテーマは極右を越えて広がっているので反ジェンダー運動は極右と同義ではない[28]。
"ジェンダー・イデオロギー"[編集]
反ジェンダー運動はしばしば「ジェンダー・イデオロギー」という言葉を使う。反ジェンダー活動家はEUや国際機関をアメリカの億万長者、フリーメイソン、フェミニスト、ユダヤ人などのロビー活動によって操作されていると描くことがある。ジェンダーは腐敗したエリートによって押し付けられた外国の概念であるという考えを促進するために、彼らはしばしば現地語への翻訳ではなく、英語のジェンダーという言葉を使用する[10]。
推進派は自分たちを「全体主義」とレッテルを貼る「ジェンダー・イデオロギー」に対する言論・思想・良心の自由の擁護者であると提示している[30][31]。
反ジェンダー運動の中には「ジェンダー・イデオロギー」が共産主義やナチズムよりも悪い全体主義的なイデオロギーであると考える者もいる[6][30][31]。 これは家族、カトリック教会、国家、西洋文明を弱め、弱め、または破壊する目的で秘密の陰謀[6][32]や外国の組織（欧州連合、世界保健機関、国連など）によって推進されていると主張する[33][13][3][3]。
関連概念[編集］
社会学者のローマン・クハール[d]とデヴィッド・パターノット[d]によれば、「『ジェンダー・イデオロギー』の発明はカトリック教会内の議論と密接に関係している」[35] 教皇フランシスは、「ジェンダー・イデオロギー」はカトリック教会の性別補完性に関する立場を損なうと述べ、核兵器と比較し、「破壊する、死の計画を企てる、男と女の顔を汚し、創造を破壊するヘロデスの一つ」であると述べている[33]。 [36]2019年、カトリック教会は、生物学的に決定された性別または性は2つしかないとする「ジェンダー・イデオロギー」を特に扱う最初の主要文書を発表した[32]。 コレドールによれば。
聖座の視点は、生物学的性別、ジェンダー・アイデンティティ、異性愛志向の間の安定的で予測可能な相関関係に深く依存しており、それは教会の用語では、心、身体、魂の唯一自然な統一性として表現されるものである。この統一は神の直接的な創造物である自然法則と神法に根ざしていると信じられているため、人間によって形成された政治的、歴史的、社会的な取り決めを超越している[37]。
反ジェンダー運動は右翼ポピュリズム、ナショナリズム、キリスト教右派と密接に関連している[38]。クハールとパテルノッテによれば、「反ジェンダー運動は右翼ポピュリズムの波の直接的結果であるが、右派へのシフトはこれらの運動を強化し、右翼ポピュリズムの思想といくつかの思想構造を共有する「ジェンダー思想」の概念を引き継いだ新しい支持者を与える」のだそうである[39]。 [39]彼らのポピュリスト的な枠組みに沿って、国民投票はしばしば反ジェンダー運動が望む結果を確保するために利用されている[40]。
地域別[編集］
チリでの「ジェンダー・イデオロギー」に対する行進（2018年10月27日
反ジェンダー運動は2010年代初頭にヨーロッパで出現し、2019年時点ではラテンアメリカで前進していた[54]。 この運動は国境を越えており、異なる国のキャンペーンは他の国から戦略やレトリックを借りている[55]。 しかし個々の国において、反ジェンダー運動は民族主義や国家主権への訴求と重なり合っている[56]。
カトリシズムの他に、反ジェンダーのレトリックは他のキリスト教徒、儒教徒、ヒンズー教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒によって使用されている[57]。
ヨーロッパ[編集］
反ジェンダー運動が出現する前、活動家や学者はヨーロッパは完全なジェンダー平等と完全なLGBTの権利に向かって不可避の道を進んでおり、それに対する深刻な反対は過去の遺物か東ヨーロッパとカトリック国に限られた現象であると考えられていた。反ジェンダー運動はこの認識が正しくないことを証明した[56]。 1990年代以降、欧州委員会は構造基金と結束基金からの資金提供の資格を地域のジェンダー平等政策を条件としており、ポーランドが2004年に欧州連合に加盟した後、急速な変化をもたらした[58]。
2019年2月、欧州議会は「EUにおける女性の権利と男女平等におけるバックラッシュ」に対する決議を可決した[44][59]。
フランス[編集］
La Manif pour tousデモ（2013年5月26日、パリにて
フランスにおける反ジェンダー運動は、ファリダ・ベルグール[60]とLa Manif pour tous（LMPT）によって先導され、フランスにおける同性婚に反対するために2013年初めに始まり、2013年5月に同性婚が合法化された後に平等カリキュラムに反対することに軸足を置いた抗議活動であった。 [61] 反ジェンダー運動は、フランスの幼稚園でマスターベーションが教えられているという主張など、誤った噂やデマを流す[62][63][60] ジェーソン・ハーシン教授 [d] はLMPTをポピュリスト的なポスト真実運動として分析している[61]。
ドイツ[編集］
ドイツでは右派の過激派や右派のポピュリストが「ジェンダー・マッドネス」の概念に対して動員され[a]、2013年のネオナチによる呼びかけで「ドイツ国民」に対する「武器」として特徴付けられた[who?][64] 。
極右以外でも2006年からジェンダー主流化の批判的な議論があり、エヴァ・ハーマンは社会における女性の役割についてコメントし、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングは「政治的性別変更」を議論していた。右翼の過激派はこれをジェンダー主流化に反対する標的キャンペーンの前段階として利用した[64]。
さらに2013年以降、原理主義的なキリスト教の抗議同盟であるDemo für Alle [de][b] は同性婚とジェンダー主流化に反対して動員している[66]。
ハンガリー[編集］
2017年に執筆したEszter KovátsとAndrea Petőによれば、この国には「著しい反ジェンダー運動」はなかったが、特に2010年代後半に「明白な反ジェンダー言説」があり、それまで国の公的議論と散発的にしか交わらなかった。 67] 彼らは、2008年にあるフィデス議員の好みでない教科書が出版されて、ハンガリーの反ジェンダー言説が浮上した、と書いている。その政治家は、教科書には「ジェンダー・イデオロギー」が含まれており、「この傾向の最大の危険は、社会が性的アイデンティティを失うことである」と述べた[68]。 政治においては、左翼政府が幼児教育者は「意図的にジェンダー固定観念の強化を避け、男女の社会的平等に関する偏見の解体を促進」しなければならないという文章を国家カリキュラムに挿入し、2010年に初めて反ジェンダー論調が顕著となる[69]。 右翼メディアはこの変更を大いに報道し、それが「ジェンダー・イデオロジー」の推進であると主張した[70]。
イタリア[編集］
イタリアにおける反ジェンダーはレガ・ノルド党[71]やプロ・ヴィータ（ネオ・ファシスト党ニューフォースに関連している）[72]やマニフ・プール・トゥス・イタリア（後にジェネレーション・ファミリアと呼ばれる）によって後援されていた[73]。 2018年のイタリア総選挙においてレガ・ノルドはカトリックの代表を選挙人名簿に載せ、反ジェンダーの同盟を封印していた[74]。
リトアニア[編集］
2020年のリトアニア議会選挙、LGBT関連政策に前向きな姿勢を共有する祖国連合と自由党の連立成立により、リトアニア家族運動[75]などの反ジェンダー運動や国民同盟のような政党が形成された[76]。
ノルウェー[編集］
ジェンダー研究者のエリザベス・L・エンゲブレッツェン[no]は、女性宣言国際のノルウェー支部やLGB同盟の自称姉妹組織であるLLH2019などのグループをノルウェーにおける反ジェンダーの主要なアクターとして認定している。エンゲブレッツェンによれば、これらのグループは「民主主義に対する複雑な脅威」の一部である[77]。
(写真:2018年にルゼズフで行われた平等行進の際のカトリック系反ゲイデモ隊)
2013年後半、それまで学術的な言説にとどまっていたジェンダーという言葉が、右派とカトリック教会による反ジェンダーキャンペーンの一環として一般化した。 [78] 「ジェンダー・イデオロギー」に反対するキャンペーンは、与党で国家保守主義のPiS党、カトリック教会の階層、そしてPiSが流動的な境界を持つより過激な民族主義グループ：全ポーランド青年、ポーランド国家再生、国家急進派キャンプによって推進されている [79] 社会学者のPiotr Żuk [pl] と Pavel Żuk は次のように書いている。"ポーランドの右派はフェミニストと同性愛者の両サークルをカトリック宗教と関連する国民的アイデンティティに対する脅威、伝統的な家族モデルと社会秩序に対する脅威として認識している"[80]。 ポーランド右派からの反LGBTレトリックは、反移民レトリックが顕著だった2015年の欧州移民危機の終結後に増加した[81]。 反ジェンダー・レトリックによって、LGBTコミュニティはポピュリスト政治に求められるスケープゴートあるいは悪魔と化した敵として役立たされていた[82]。
1,000人のポーランド人の代表サンプルを対象とした2020年の調査では、30％が「公共メディアを支配することによって部分的にキリスト教の伝統を破壊する秘密の計画として定義される」ジェンダーの陰謀の存在を信じていることがわかった[32]。 この調査ではジェンダーの陰謀に対する信念は宗教性とは相関せず、カトリック教会が社会における特権的地位を占めるべきという信念とLGBTの人々を隣人とみなす拒絶と強く関連していることが明らかになっている。 32][83] Marta Rawłuszkoは、ポーランド人が共産主義支配下の実際の陰謀を見出す傾向があるのではないかと指摘している[84] 2020年6月、PiSのAndrzej Duda大統領は、2020年のポーランド大統領選挙を前に、LGBTを「思想」であり「ネオ・ボルシェビズム」の一種だと呼んで注目された[85][86][84]。
北米[編集］
アメリカ合衆国[編集］
2021年、プエルトリコでは、アレハンドロ・ガルシア・パディラ前知事の下で作られ、ペドロ・ピエルイジ知事の下で制定されている「ジェンダー視点カリキュラム」の公立学校への導入に反対する行進が行われた。何万人もの行進者たちは、このイベントを「ジェンダー・イデオロギー」に対する行進と表現した。演説者にはダニエル・フェルナンデス・トレス司教、政治学者のアグスティン・ラジェ[es]、その他の宗教指導者が含まれた[87]。
ラテンアメリカ[編集］
ブラジル[編集］
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、「ジェンダー・イデオロギー論者」を保守的なキリスト教に対抗する勢力として特徴づけている。また、「学校におけるジェンダー・イデオロギー」を禁止したいと発言している[15]。
コロンビア[編集］
2016年のコロンビア和平協定の国民投票の際、和平協定に反対する福音派のキリスト教圧力団体と右派政治家は、条約におけるLGBTの人々の保護は「ジェンダー・イデオロギーを押し付ける道具」だと主張した[27][56][88]。 これは福音派の選挙民の多くに協定に反対する動機を与えるのに役立ち、結局有権者に否決されて[88] 50.22% (No) 対 49.78% (Yes) で否決された。
