共産党の大会で「ジェンダー平等」はどう扱われたか

共産党の最新の大会は今年2020年の1月に行われているが、その内容をまとめてある資料として、「前衛」の増刊号を手に入れたので「ジェンダー平等」に着目して目を通してみた。

楽天Amazonでは取り扱いはあるが売り切れ。共産党の事務所に問い合わせれば在庫が残っているかもしれない。
(私は知人の党員の方に頼んで入手)

 

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 扱われているイシューは本当に幅広い。全部を読もうとすると凄まじいボリュームだ。

大会で綱領を改定するのは、調べてみたところ2004年の23回大会以来16年ぶり、5大会ぶり。1961年に現在の方針の土台となる綱領を採択してから5回目の改定になるようだ。当時いちばん注目されたのは中国に対する評価の大幅な変更だったと思う。

改定された新しい綱領はこちらで読める。

www.jcp.or.jp

 

前衛には最終的に採択された綱領だけではなく、19年11月に発表された「案」や、それを提案するにあたっての志位氏の説明なども含まれている。丁寧に議論されたであろうことが伺える。

その資料のうち一部はここにまとめられている。以下の本文で引用している「提案報告」や「中央委員会報告」「結語」などへのリンクがある。

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ジェンダー平等」部分について、綱領から引用する。赤字で強調した部分が今回の改定で追加された部分とのことだ。

ジェンダー平等社会をつくる。男女の平等、同権をあらゆる分野で擁護し、保障する。女性の独立した人格を尊重し、女性の社会的、法的な地位を高める。女性の社会的進出・貢献を妨げている障害を取り除く。性的指向性自認を理由とする差別をなくす。

 以前から「男女平等」「女性の人権を尊重、女性差別をなくす」という姿勢は盛り込んでおり、そこに性的マイノリティの権利擁護を加え、全体を「ジェンダー平等」という項目にした、ということだろう。

 「ジェンダー平等」に注目すると、つい上記の部分にばかり目が行きがちだが、第7節に重要な規定が挿入されている。丸ごと引用しておく。

人権の問題では、自由権とともに、社会権の豊かな発展のもとで、国際的な人権保障の基準がつくられてきた。人権を擁護し発展させることは国際的な課題となっている

この文章全体が今回新しく追加されたもの。つまり、国際的な人権認識の発展を受けて、その基準についていくことを方針に盛り込んでいるわけだ。

これについて、志位氏は19年11月の第8回中央委員会総会における提案報告(以下「提案報告」)において「かつては人権問題は国内問題として扱われてきたが、日本やドイツでの人権蹂躙が第二次世界大戦への道を開いたことを踏まえ『国際的な人権保障』という考え方が登場した。21世紀になり、人権を擁護し発展させることは各国の『国際的な義務』となった」と語っている。(資料p39)

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続いて綱領9節で、この「国際的な人権保障」から「ジェンダー平等」への流れを以下のように書いている。これも今回の新しい追加文章。

二〇世紀中頃につくられた国際的な人権保障の基準を土台に、女性、子ども、障害者、少数者、移住労働者、先住民などへの差別をなくし、その尊厳を保障する国際規範が発展している。ジェンダー平等を求める国際的潮流が大きく発展し、経済的・社会的差別をなくすこととともに、女性にたいするあらゆる形態の暴力を撤廃することが国際社会の課題となっている。

 この部分について提案報告では「国際規範」として、具体的に女性差別撤廃条約子どもの権利条約・移住労働者権利条約、少数者の権利宣言、障がい者権利宣言、先住民の権利宣言を列挙し、「全世界の草の根からの運動が大きな力になった」と評価したうえで、「ジェンダー平等」についても「こうした世界の構造変化の中に位置づけることができる」と語っている。

79年の女性差別撤廃宣言、93年国連総会での「女性に対する暴力撤廃宣言」から、95年・北京での第四回世界女性会議において「ジェンダー平等」「ジェンダーの視点」を掲げたことが契機となり、2000年の国連ミレニアム総会における開発目標の一つに「ジェンダー平等と女性の地位向上の促進」が掲げられた。2015年にその後継として採択された「持続可能な開発目標」(いわゆるSDGs)でもジェンダー平等が目標のひとつに掲げられ、全ての目標に「ジェンダーの視点」が据えられた、と提案報告で説明している。(資料p51)

こういった「世界の流れ」という背景のうえに共産党の綱領があることは注目しておく必要があるだろう。

続いて、大会当日(20年1月)における志位氏の「中央委員会報告」を読む。これもオンラインで読める。動画もある。

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この中では、「ジェンダー平等」について、案を発表してから2ヶ月の間に「全体として強い歓迎の声が寄せられた」としたうえで、「男女平等とはどう違うのか」という疑問に答えている。(資料p84)

そこから感じられるのは「ジェンダー平等はジェンダーを利用して人民を支配・抑圧する政治を変えること」という認識である。単に「女性を抑圧している」というにとどまらず、男女に格差をつけることによって、男性も含めた人民全体を「支配・抑圧する道具」になっていることを認識する、包括的な姿勢だと感じた。

ジェンダーギャップ指数の著しい低さ、財界トップが男性ばかり、戦前の「家制度」への批判とそれが現代にも残っていることなどを指摘、日本軍「慰安婦」に対する安倍政権の姿勢への批判もある。

以下の部分は特に大事だと思ったので丸ごと引用する(強調は私によるもの)。

まず何よりも強調したいのは、党が、ジェンダー平等を求める多様な運動ー性暴力根絶を目指すフラワーデモ、就活セクハラやブラック校則を変えるたたかい、性的マイノリティーへの差別をなくし尊厳を求める運動などに、「ともにある」の姿勢で参加し、立ち上がっている人びとの声に耳を澄ませてよく聞き、切実な要求実現のためにともに力をつくすことです。
私たち一人ひとりが、無意識に内面化している人権意識のゆがみと向き合い、世界の到達、さまざまな運動の到達に学び、勇気を振り絞って声をあげている人びとに学び、自己変革のための努力を行おうではありませんか。

 「学ぼう」「自己変革しよう」と呼びかけているところに注目したい。

続いて、「結語」を見てみる。

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大会に出席した人たちの発言を受けての「まとめ発言」のようなものだ。3日間で88人が発言したそうだが、その中で「ジェンダー平等」を主要テーマにした人は、私が確認したところ4人。このうち3人について志位氏は結語の中で紹介している。また、党外からの反応として同志社大の岡野八代教授によるツイッターの発言を引用している。

志位氏は出席者の発言を引用して「自己変革を行おう」と呼びかけたあと、過去に赤旗掲載の論文などで同性愛を「性的退廃」と述べたことについて「間違いであったと明確に表明」した。これは当時、赤旗紙上でも報道され、話題になったと記憶している。(資料p102-103)

さて、ここからは大会発言について見ていく。これはオンラインでは掲載されていない。

愛知県選挙区で参院選に2回挑戦している須山初美氏。前年の参院選で「ジェンダー平等」を掲げ、特に仕事場でのハラスメントや暴力を無くそうとプロジェクトに取り組んだことを紹介している(資料p277)。

千葉県選挙区参院選に出馬した浅野史子氏も、自身の体験してきた女性差別を告発している。同時に、党内で戸惑いの声があるということも率直に紹介している(資料p353)。

トランスジェンダー当事者として、そのことを公表して選挙に挑んだことを語っているのが高月まな新宿区議(資料p338)。「どうせMtFと気付かれるだろうと思っていたら意外に気付かれず、カミングアウトのタイミングをどうするか周囲と相談していた」という。
転機となったのが杉田水脈自民党議員の「生産性」発言で、ロバート・キャンベル氏や岡野八代氏による「差別に対する怒りの表明」としてのカミングアウトに背中を押され、自分もカミングアウトしたうえで選挙に臨もうと決意したそうだ。
その後、ベテランの党員から「過去にゲイの党員を差別的に見ていた」という反省の声を聞いたこと、自分に対するミスジェンダリングに反論してくれた党員がいたこと、「LGBTの学習会をやりたい」という声が出てきたことなど、色々と前向きな反応が出てきたことを紹介している。
一方で「課題もある」として、レズビアンだという匿名の党員から「党内で理解してもらえない」と相談されたことを紹介している。ツイッター上で党員やサポーターを名乗ってトランス差別発言をしている人も見かけるが、党綱領に書き込んだからといってすぐに構成メンバーの意識が変わるような簡単なものでもないだろう。共産党には党内での努力を期待したい。

赤旗の記事では、須山氏と高月氏のエール交換が紹介されている。

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もう一人「ジェンダー平等」を主テーマに発言しているのが、この大会で設置された「ジェンダー平等委員会」の事務局長に就任した坂井希氏だ(資料p261)。前年に党本部内で立ち上げた「JCPwithYou」の運営への関わりなど、ジェンダー平等の政策立案などに関わってきたという。性暴力、セクハラの課題とともに、セクシャルマイノリティの苦悩にも目を向けている。同時に、「外から、あるいは世界の到達から見れば遅れている面がある」と謙虚な姿勢も示しているところに好感が持てる。


最後に要望をひとつ。

志位氏などが使っている「男性も、女性も、多様な性を持つ人びとも」という言い回しに、私は違和感を感じる。それはおそらく、性別二元論を大前提として、典型的な男女以外を「第三の性」のカテゴリに押し込んでしまう、もっと言えば「性別二元論からの逸脱者」として見てしまいがちな社会構造があるからだろう。高月議員のいう「すべての人がグラデーションだ」という認識のほうが、私の感覚にはすっきり納まる。

これに関しては、遠藤まめた氏が書いていることを引用しておきたい。

日本では、LGBTの問題はいまだ男女の枠組みの「外」で語られがちで、私は女性団体の人からしばしば「男・女」しかなかった性別欄に新しく「LGBT」を加えたらどうかとまったくの善意で提案されたりしている。そのたびに「男や女にもいろいろいるんだ、という問い直しが必要じゃないでしょうか」と伝えてきた。日本でフェミニズムに関心のある多くの人は、男性や女性の多様性ではなく「その他」としてLGBTを捉えていて、だからLGBTをめぐる新たな話題が盛り上がると「自分たちのパイ」が奪われたように感じる人もいるのかもしれない。

wezz-y.com

まあとにかく、「自己変革を」と言っているところに期待したい。これからも要望を伝えていきますよ。